心理検査による患者の理解
実習期間 平成11年9月3日〜10月29日
実習機関 帝京大学医学部付属市原病院
961266 岸上 裕乃
1.実習目標と課題
@ロールシャッハ・テストやWAIS-Rを患者に対して実施することで、検査技術を身につける。また、検査結果が患者の理解にどのように使われているかを知る。
A心理検査や教授回診を通して、うつ病患者に対するかかわり方、捉え方、援助の仕方、また、うつ病の治療や経過を学ぶ。
2.実習内容の概要
@心理検査の実施
ロールシャッハ・テスト、WAIS-Rの検査場面に同席した。
ロールシャッハ・テストを患者に対して施行した。
A患者とのかかわり
第4週の午前中に行われる料理に参加した。
B教授回診の見学
午後に行われる教授回診に参加し、担当医による患者の病状、経過、治療報告を受けた。
3.ケーススタディ:ロールシャッハ・テスト(実習6日目施行)
a)対象者:26歳 男性 入院26日目
b)診断名:Major Depressive Disorder
c)主訴:うつ状態が長く続いているので、何とか治したい。
d)検査方法:包括的システムによるロールシャッハ法の標準手続きに従った。
e)検査結果:R(総反応数)=16
・うつ病指標、精神分裂病指標、対処力不全指標が陽性であった(DEPI=5、SCZI=4、CDI=4)。うつ病のベースには、社会での対処能力が不足していると考えられる。
・人格構造はやや未成熟であり(CDI=4)、利用できる資質が限られている(EA↓)ため、日常生活で生じる問題にも対処していくことが困難であるといえる。
・体験型は不定形であり(EB=1:1)、感情や思考が問題解決や意志決定の際に一貫した役割を果たしていない。
・外界に対して非常に否定的で怒りに満ちた態度を持っていて(S↑)、感情刺激を避けようとする傾向が見られる(Afr↓)。
・自己イメージは想像に基づくものであり(H:(H)+Hd+(Hd)=1:3)、それは否定的な傾向である(MOR=2)。
・やや普通でない自己検閲が起きており(V=1)、身体的なものへ向けられていると考えられる(An=4)。
・対人関係は表面的で、うまく維持できず(CDI=4)、他者に対する関心が低い(人間反応↓)ため、社会的に孤立している様子がうかがえる。
・人々の間に肯定的な関係を認知できず(COP=0,AG=1)、他者に対してやや依存的な傾向が見られる(Fd=1)。
・ペア反応は4つあるが、うち3つは「肺とか心臓とか:U」「女の子が二人:Z」「エビが二匹:]」と相互関係が見られず、対人関係に気が進まないことが示唆される。
・複雑または曖昧と知覚した刺激野を、せばめたり単純化させる傾向がある(L↑)。
・刺激摂取が不足している(Zd=-5.0)ため、刺激野に存在する大切な部分や手がかりを無視してしまう可能性がある。
・動機づけは高いが(W↑)、利用できる資質は少ない(EA↓)ため、単純かつ正確に定義づけられた場面でさえも、独創的で非慣習的な反応をしがちである(P=2)。
・知覚はかなり不正確である(X-%↑)。
f)問題意識と考察
被験者の思考や感情の役割ははっきりせず、エネルギーの不足を感じさせるが、刺激の取り込みを少なくすることで対処していることが見受けられる。利用できる資質が不足していることから、それを増やしていくために自分自身に目がいきすぎている状態を、徐々に外へと向けていけるようにすることが必要ではないかと思われる。
患者自身にこの結果を伝えたところ、「自分にあてはまっている」というコメントがあった。検査を行い、結果を示すことで患者が気づいていなかったこと、あるいは気づいていたことを整理することができ、治療への意欲を持つことができたのではないかと思う。
4.全体的考察
今回の実習では、7回という短い期間の中でロールシャッハ・テストを2回も施行させていただいた。検査の進め方や解釈を学ぶだけでなく、会話や間、その場の雰囲気に多く触れることで検査の重みや意味を考えさせられた。
また、単に検査が数値だけに終わらずに、患者のパーソナリティを全体的な視野で見ていくことや、今後の治療・リハビリに役立てるために行われていることを理解することができた。
教授回診では、同じ病名であっても病状は様々であるということがよくわかった。このことから、病名だけにとらわれるのではなく、その人個人の悩みに目を向けられるようになることが大切なのではないかと感じた。
検査が中心の実習だったため、患者とコミュニケーションをとる機会が少なかったのは残念だったが、ボランティアとは異なる、病院の職員としての立場から観察できたことは貴重だった。今までとは違う視点による今回の経験を、今後、人との関わり合いの中で生かしていきたいと思う。
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