猿谷要、歴史物語アフリカ系アメリカ人

猿谷 要   『歴史物語 アフリカ系アメリカ人』
朝日選書(朝日新聞社)

歴史

この本は、アメリカ合衆国の歴史であり、アフリカ系アメリカ人つまり黒人たちを中心とするアメリカ現代史でもある。アメリカ史は近代奴隷制度の歴史であり、アメリカ現代史は公民権運動を抜きにしては語れないのだ。
この本の前半は、第2次世界大戦以前の奴隷制度とアメリカ黒人の歴史を要領よくまとめた部分である。後半は、1954年の連邦最高裁ウォーレン判決、つまり白人と黒人の「分離」を違憲としたこと以後の、公民権運動およびその他の社会運動の歴史である。

この本は、アメリカ現代史として良くまとまっている。
私は、J.F.ケネディ暗殺の時(1963年)に20歳の大学生で、マーチン・ルーサー・キングが暗殺された時(1968年4月)には、まだ広告会社のサラリーマンだった。
日本の新聞・雑誌にも、アメリカの黒人運動やベトナム反戦運動の記事がのっていたが、それがどういうものなのかは、正直なところ、よく分らなかった。しかし今この本を読むと、ああそうだったのかと思うことが多い。

思想

この本のなかで特に、私は次の2カ所の引用から感銘を与えられた。
一つは、デュボイスの『黒人のたましい』(1903年)から、黒人の心が2つに分れていること、つまり黒人としての自分と、それを他人のように見ている白人世界の価値観という自分、つまり自己の二重性の問題をデュボイスが言っているところである。(143頁)
このような自己の二重性の問題は、困難な状況を生きのびた人々が多く感じるところである。

もう一つの引用は、メンフィスで暗殺される直前のマーチン・ルーサー・キングの演説(教会での説教)で、ここでキングは「長生きをすればそれなりのことはあるわけです」と言い、「山の頂に登った」と述べている。(285頁)
私は、有名な「I have a dream」演説を美しい響きだとは思ったが、他人事のように思っていた。しかしこの告白を読んだ後で、苦労のし続けだったキングの生涯に共感をもった。

この本は、私のような初老の者から若い人まで、多くの人にすすめられる、分りやすく、感動のある本です。
    2000年11月3日 記


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