グループ療法における相互作用について
実習期間 平成11年5月10日〜6月28日
実習機関 千葉大学医学部附属病院
961018 中村桂子
@実習目標と課題
今回の実習では、患者がグループに対しどのような期待をもって参加しているか、患者がグループ療法に参加して得られることや、患者個人が変化することからグループ全体に及ぼす影響について患者とグループにはどのような関係があるか考察することを目標とする。
A実習内容の概要
午前中は心理テストに同席し、ロールシャッハテストやWAIS-R、記銘力検査、SPECT-セットを見学した。午後からは、外来のグループ療法に実習生として参加した。プログラムはスタッフ企画と患者企画があり、その企画の企画者を中心にスポーツや遊び、ディスカッションを行った。
Bケーススタディ
a)対象者の年齢・性別
20代前半から30代前半の青年期のグループであり、男性6名、女性4名のメンバーで構成されている。新しいメンバー1人も最近加わったばかりである。この中でほぼ毎回参加するのは4名程度で、他のメンバーの参加はそれぞれの事情により様々である。
b)診断名
分裂病と診断されている患者が4名、不安神経症の患者が2名、器質性精神病の患者が1名、心因反応1名、対人恐怖1名、過食症1名であり、活発に意見の出せる人と静かに他の人の意見を聞く人に分かれていた。
c)グループ療法の目的
グループ療法は、仕事や学校に復帰したいと考えながらも自信がなくなかなか一歩が踏み出せない患者、対人関係が苦手で家に引きこもりがちになっている患者を対象にグループワークを行い、グループの活動を通じて社会生活や人間関係に慣れ、社会復帰の助けとなることを目的とする。
d)活動内容
グループ療法では3ヶ月毎にプログラムを作成し、患者の希望の多いものや振り返りを含めたディスカッションを行っている。プログラムの中にはスタッフが主催する企画だけではなく、立候補のあった患者が担当する企画もあり、食事会(Kさん企画)、料理(Mさん企画)、サッカー、ビリヤード(Rさん企画)、バスケット、ビデオ鑑賞(Iさん企画)といったような作業、遊び、ゲームとバラエティに富んでいる。そして、企画立案にはほとんどの患者が参加している。
e)活動経過(ここではRさん企画のビリヤードの様子について取り上げることとする)
グループ療法に参加するようになって3年目を迎えるRさんは、最初の頃は他のメンバーやスタッフと話すことは少なく、攻撃的な行動が多く見られたとのことであったが、実習中に行われたビリヤード企画では、スタッフに促されながらも一人一人理解できているか確認をしながら丁寧にルールを説明していた。説明が終わると、「では、始めましょう。」と皆に声をかけ、順番を決めていた。ゲームの最中は、他のメンバーに「ここから打った方がうまくあたるかもしれない。」とアドバイスをしたり、ゲームが行き詰まると、ルールを確認しながら「どうしましょうか?」と尋ね「今回は良いことにしましょう。」と皆が楽しくできるように工夫していた。他のメンバーも「それはこっちからの方がいいよ。」と声をかけ、一緒に考え、勝者が決まると自分のことのように喜んでいた。
ゲームが終わってからは、Rさんが「今日は楽しかったですか?」と他の人に尋ねる場面が見られ、その他に、病院までどうやって通っているか、自転車に乗っていての出来事などを話していた。
f)問題意識と考察
スタッフ企画だけではなく、患者主催の企画を行うことで、自主性が高まり自発性の体験へとつながる。そして、スタッフが患者と一緒に参加することで、人と人との関係づくりへつながると感じた。そのためには患者とスタッフの間に高い壁を作るのではなく、同じ立場で体験し共感することが必要であることを学んだ。同じ立場で接することにより、患者は人と人とのふれあいを体験できる。そこから、初めスタッフを介して会話の多かった患者が、作業や遊びを通じて他者から刺激を受け、喜びや楽しみを感じ、同じ時間を共有している患者を仲間として捉え、互いの理解が深まっていくと感じた。そのようなグループは、患者が安心して自分を出せる場となり、他者を受け入れようとする理解や配慮から信頼関係を築く場になると考えられる。
これらのことは、患者自身の自信となり、責任をもった行動や良好な対人関係へつながり、社会生活の第一歩とすることができると考えられる。
C全体の考察
今回の実習から、患者はグループへ対人関係を良好にする、社会生活に役立てるという期待をもって参加し、グループ療法の場は自分を表現できる場として利用されていることを学んだ。グループ自体にこのような自助的な面があるということは、活動を通じ長い時間をかけて患者一人一人の意識が高められた結果であると言え、またグループには、様々な人が集まることで互いに影響しあい、高めあえる関係をつくる働きがあると言える。このようにグループが機能するには、スタッフの患者一人一人に対する理解と、じっくり話を聞いたり少し距離をおくかかわり、そして、患者が主体となり活動するよう同じ立場からのサポートが重要と考えられる。
実習を振り返り、戸惑うことが多くなかなかグループの中に入っていけずにいた不安や活動を通じての喜びなど、それら全てが貴重な体験であった。先生方からもそれらの思いはグループにいる患者に近いものであり共感できるものであるので、患者と打ち解けるヒントとなるとご指導いただいた。これら実習で体験したことを、今後の学習や活動に生かしていきたいと思う。
千葉大学医学部附属病院Uへ
扉に戻る