大学病院における心理検査と精神分裂病
実習期間 平成11年5月14日〜6月25日
実習機関 帝京大学医学部附属病院
961355 力石陽子
@実習目標と実習課題
精神障害の中でも特に精神分裂病に注目し、
・心理検査、特にロールシャッハ法を用いて、精神分裂病の特徴と、症状の経過を学ぶ。
・精神分裂病患者への直接的な関わり方と治療法を、病院内の回診を見学して学ぶ。
以上の2点を通して、精神分裂病に対する理解を深めることを目標とした。また、精神分裂病以外の諸障害についても、心理検査,回診見学で、その症状と治療経過を学ぶことも同じく目標とした。
この目標に対し、具体的な実習課題には、ロールシャッハ法の検査と知能検査(WAIS-R)の、施行から結果の解釈までを学ぶこととした。
A実習内容の概要
期間中毎週金曜日、10:00〜16:00の時間で実習を行った。
午前には主に入院患者の検査を行い、心理検査の施行を学んだ。また、その被検者のカルテを読むことによって各症状の様子や治療方針を学んだ。
午後には教授回診を見学し、担当医による各患者の経過報告から治療法やその効果を学んだ。また、方針を立てる上で心理や福祉の分野との連携も学んだ。
Bケーススタディ:ロールシャッハ・テスト(実習5日目に施行)
a)対象者:54歳 女性 入院31日目
b)診断名:Schizophreniform Disorder,Paranoid Type
c)検査の方法:包括システムによるロールシャッハ法の標準的手続きに従った。
d)検査結果:R=15
EA=4.5、COP=0,AG=0、WSumC=0.5、Active:Passive=4:7、SumT=0,Isolate/R=0.47,Food=3で5項目に当てはまり、CDI陽性となった。他指標は全て陰性。
所見の主な特徴には次のようなことがあった。
・利用できる資質が限られており、日常生活の中の必要性への対処に問題が生じる傾向がある(CDI=5,EA=4.5)。
・体験型が固定化された内向型で、試行錯誤的行動を避け、内的評価に価値をおく。また、問題解決や意思決定に感情はあまり利用しない。エラー耐性もあまりない。(EB=4:0.5,EBPer=8)
・自己を過大に評価する顕著な傾向を含む自己愛的な特徴を中核とした自己イメージを持っている(Fr=1)。
・自分に目を向けがちで、周囲への関心や感受性が乏しくなっている可能性が高い(自己中心性指標=0.60)。
・受動的な役割をとりやすく、責任をとることを避け、新しい行動パターンをとろうとせず、顕著な依存傾向を示し、受動的依存的な行動に特徴づけられる対人関係を示している(a:p=4:7,Food=3)。
・人々の間に肯定的な相互作用を期待せず、距離をとり、ガードが堅い人と見られやすい(CDI=5,COP=0)。
・社会的に孤立しており、円滑な、意味のある対人関係に困難が生じている(孤立指標=0.47)。
・対人関係には気が進まない様子である(ペア反応を含む運動反応=5、うち「手を合わせている」「話し合っている」という消極的なものが3つ、あとの2つは「葉っぱを食べている」「蜜を吸っている」という社会的な相互作用を含んでいないもの)。
・単純で明確な場面では、容認される慣習的な反応をする力は十分に持っている(P=5)。
・不快な状況において空想を乱用しやすく、責任や意思決定の回避が顕著なスタイルとして存在している(Ma:Mp=1:3)。
e)問題意識と考察
この対象者は、同病院の他科で入院加療中に幻覚妄想が現れ、強い精神運動興奮のため精神科に医療保護入院となったもので、検査時は入院31日目、薬物治療により幻覚妄想は消失し、大部屋へ移ったばかりであった。検査の約2週間後には自宅に2泊の外泊ができ、退院も考慮され始めた。検査結果としてはCDI陽性となったので、日常生活においては家族などの援助が必要なことは明らかである。また、精神科退院となっても他科の治療が並行されており、そちらでの治療中に発症した経歴があるため、継続した精神科の治療が重要であるといえる。検査中、前の図版で使用した言葉を誤って続けて次の図版の説明で用いたり、前の図版と同じ固執(PSV)に近い反応内容を示したりしたことは、頭の中で切り替えがうまくできないためではないかと考えられた。急性症状のような興奮状態は消失しているが、日常生活の中で円滑に機能するにはまだもう少しかかると言える。
検査結果では、他者の欲求や関心に鈍くなっている傾向がみられたが、慣習的反応をする力はもっている。病棟内のレクリエーションに自ら参加しており、その中で周囲の様子を見て指示されたこと以外のことも気を利かせてやろうとする行動なども見られたことから、外へ目を向け始めているのではないかとも考えられた。
ロールシャッハ・テストの分裂病指標が陽性となるような症状は、薬物治療によっておさえることができるということで、この対象者の分裂病様症状は投薬によって消失しており、指標が陰性となったものと考えられる。
C全体的考察
今回の実習では、病院における精神科の治療と、その中で心理分野の果たす役割の一端を学ぶことができた。また、実際の検査を何度か施行させていただけたことは、とても勉強になった。直接関わることのできた患者さんは、検査をさせていただいた数人であったが、そのぶん患者さんたちの中でもその数人に絞って病状経過や特徴を把握することができたと思う。特に、ロールシャッハ・テストを施行した患者さんに関しては、カルテを読むと入院時に激しい妄想状態にあったのが、薬物療法でどれだけ良くなったかが検査でよくわかり、主に投薬によって即座に対処が必要とされるような症状を緩和し、できるだけ早期に退院できるようにしようとする治療の流れを見ることができた。深く反省すべきこともあったが、自分にできることはできる範囲で努力できたと思う。
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